本州最北端の青森県は、豊かな自然と清らかな水に恵まれた日本酒の隠れた名産地です。寒冷な気候を活かした「寒造り」で生まれる青森の地酒は、すっきりとした飲み口と深い味わいが特徴。津軽地方と南部地方、それぞれ異なる個性を持つ銘酒が数多く造られています。
青森の酒造りは江戸時代から続く長い歴史があり、現在も県内各地で個性豊かな酒蔵が伝統を守り続けています。特に11月から3月にかけての寒造りシーズンには、各蔵元で新酒造りが本格化。この時期に青森を訪れれば、できたての新酒を味わったり、一部の酒蔵では見学で造りの現場を見学したりと、日本酒好きにはたまらない体験が待っています。
今回は、青森県が誇る地酒15選と見学可能な酒蔵、そして地酒の美味しさを引き立てる郷土料理とのペアリングをご紹介します。
津軽地方の銘酒8選
田酒(西田酒造店)
青森を代表する銘酒として全国的に知られる「田酒」。添加物を一切使わない純米造りにこだわり、青森県産の酒造好適米を中心に、厳選された米で醸造されています。すっきりとした飲み口でありながら、米本来の旨味がしっかりと感じられる逸品です。特に「田酒 特別純米」は、青森の地酒入門編として多くの人に愛されています。 西田酒造店は青森市油川に位置し、明治11年(1878年)創業の青森市唯一の酒蔵です。なお、一般向けの酒蔵見学は実施していませんが、県内の酒販店などで田酒を購入することができます。
喜久泉(西田酒造店)
「田酒」と同じ西田酒造店が手がけるもう一つの銘酒が「喜久泉」です。田酒が純米酒のブランドであるのに対し、喜久泉は香り高くキレのある吟醸酒・大吟醸酒として造られています。より親しみやすい価格帯でありながら、品質の高さは折り紙付き。日常酒としても人気が高く、青森県民に長く愛され続けています。
じょっぱり
津軽弁で「頑固者」を意味する「じょっぱり」は、淡麗辛口の味わいで地元の人々に長く愛されている銘酒です。青森県産の酒造好適米「華想い」を使用した純米酒などは、フルーティーな香りと力強い味わいが特徴。弘前を代表する地酒の一つとして、県内の多くの飲食店で味わうことができます。
白神(白神酒造)
世界自然遺産の白神山地の伏流水で仕込まれる「白神」は、清らかな水の恵みを存分に活かした銘酒です。白神酒造は弘前市米ケ袋の白神山地の麓(東目屋地区)に位置し、山廃造りをメインに自然を生かした酒造りを行っています。平成25年(2013年)2月の火災により蔵を焼失しましたが、再建を果たし現在も酒造りを続けています。 特に「白神 山廃純米酒」は、穏やかながらきれいな香りと柔らかな口当たりが特徴で、コストパフォーマンスの高さでも評価されています。
豊盃(三浦酒造)
弘前市郊外にある三浦酒造の「豊盃」は、地元密着型の酒造りで知られる銘酒です。青森県産米「豊盃米」を復活栽培し、この米で造られる純米酒は米の個性が際立つ味わい。地元の料理との相性も抜群で、津軽の郷土料理と合わせて楽しみたい一本です。 小規模な家族経営の蔵ながら、「日本酒のホープ」とも称される高い品質で全国的な人気を集めています。
菊乃井(鳴海醸造店)
黒石市の伝統的建造物群保存地区「こみせ通り」に位置する鳴海醸造店は、文化3年(1806年)創業の老舗です。代表銘柄「菊乃井」は、南八甲田の伏流水を使用し、口当たりの良さとふくよかな旨味が特徴。 歴史ある建物や美しい庭園を見学できる酒蔵としても人気で、観光の合間に立ち寄り、試飲や買い物を楽しむことができます。「稲村屋文四郎」も同蔵の銘柄として知られています。
華一風(カネタ玉田酒造店)
弘前市に位置するカネタ玉田酒造店が醸す「華一風」は、青森県産酒造好適米と青森県オリジナル酵母を使用した純青森産の日本酒です。創業享保4年(1719年)の老舗蔵で、「津軽じょんから」も代表銘柄として知られています。 新しい挑戦をしながら酒質を向上させていく姿勢で、伝統と革新を両立させた酒造りを行っています。
安東水軍(尾崎酒造)
西津軽郡鰺ヶ沢町に位置する尾崎酒造が醸す「安東水軍」は、日本海の覇者にちなんで名づけられた銘酒です。白神山地から湧き出る天然水を使用し、青森県産米にこだわった酒造りを行っています。特別純米酒は、辛口ですっきりとした味わいが特徴で、青森の海の幸との相性も抜群です。
南部地方の銘酒7選
陸奥八仙(八戸酒造)
八戸市の八戸酒造が手がける「陸奥八仙」は、華やかな吟醸香とさわやかな甘みが特徴の銘酒です。青森の海の幸との相性を考えて造られており、フレッシュでフルーティーな味わいは若い世代にも人気が高く、冷やして飲むとその真価を発揮します。 八戸酒造は安永4年(1775年)創業の老舗酒蔵で、大正年間に建設された煉瓦蔵や土蔵などは国の登録有形文化財に指定されています。2021年には世界酒蔵ランキングで1位を獲得するなど、国内外で高い評価を受けています。酒蔵見学も実施しており、八戸の海の文化と日本酒の関わりについても学ぶことができます。
陸奥男山(八戸酒造)
「陸奥八仙」と同じ八戸酒造が手がける創業銘柄が「陸奥男山」です。地元八戸の漁師に愛好者も多い辛口酒として人気があり、全国新酒鑑評会での金賞受賞をはじめ、近年の「Kura Master」など海外のコンクールでも高い評価を受けています。和・洋・中を問わず料理の味を引き立てる切れ味鋭い辛口で、冷、燗、常温と万能な飲み口が魅力です。
如空(八戸酒類五戸工場)
五戸町に位置する八戸酒類五戸工場が醸す「如空」は、豊富で清らかな湧き水と青森県産の酒米、八戸酒類の蔵で生まれたと言われる10号酵母にこだわった酒造りで知られています。南部杜氏の伝統の技で醸された「ピュアで端麗」「ふくよかな旨味」「喉越しの良い後味」が特徴です。 蔵の横を流れる五戸川に通じる地下80メートルから汲み上げた軟水を使用し、柔らかな口当たりに仕上げています。事前予約制で酒蔵見学も可能です。
八鶴(八戸酒類八鶴工場)
八戸市に位置する八戸酒類八鶴工場が醸す「八鶴」は、八戸を代表する老舗銘柄です。「如空」と同じ八戸酒類株式会社の製品で、華やかでフルーティーな香りと締まった乳酸系のシャープな味わいが特徴。特別純米酒「ひやおろし」などの季節限定商品も人気です。
鳩正宗(鳩正宗)
十和田市の鳩正宗は、1899年(明治32年)創業で十和田市唯一の酒蔵です。「鳩正宗」の特徴は、まろやかで飲みやすい味わい。「地酒は、地方食文化の結晶である」という誇りのもと、米の旨みを生かした酒造りを目指しています。 国立公園十和田湖・八甲田山の恵まれた自然、風土、環境で、バラエティ豊かな個性溢れる酒造りに取り組んでいます。酒蔵見学は2月から3月上旬の午後3時以降に限定して実施しています。
駒泉(盛田庄兵衛)
上北郡七戸町の盛田庄兵衛が醸す「駒泉」は、安永6年(1777年)創業の歴史ある酒蔵で造られる銘酒です。平安時代から名馬を産していた馬産地・七戸町にちなみ、「駒の里に清らかな水が湧いている」という伝説から命名されました。 八甲田山系高瀬川の伏流水と青森県産の酒米を使用し、南部杜氏の伝統的手法で丁寧に醸造されています。「朔田」「七力」「作田」なども同蔵の銘柄として知られています。東北新幹線七戸十和田駅から車で5分とアクセスも便利です。
桃川(桃川)
おいらせ町の桃川は、青森県内でも大手の酒造メーカーです。代表銘柄「桃川」は、安定した品質と飲みやすさで県内外から愛されています。特に「桃川 吟醸酒」は、上品な香りと清涼感のある味わいが魅力。 桃川では工場見学も実施しており、大規模な酒造りの現場を見学できます。近代的な設備と伝統的な技術の融合を体感できる貴重な機会です。
青森の地酒と合わせたい!絶品郷土料理とおつまみ
青森の地酒をより深く楽しむなら、地元の郷土料理とのペアリングは欠かせません。津軽と南部、それぞれの食文化に合わせたおすすめの組み合わせをご紹介します。
1. 貝焼き味噌(津軽地方)× 旨味のある純米酒
大きなホタテの貝殻を鍋代わりにして、ホタテの身やネギを味噌と卵で煮込む津軽の郷土料理「貝焼き味噌(かいやきみそ)」。味噌の香ばしさと卵のまろやかさには、米の旨味がしっかりと感じられる「田酒 特別純米」や「豊盃」などの純米酒が抜群に合います。熱々の貝焼きと常温またはぬる燗の純米酒の組み合わせは、青森の冬の定番です。
2. イカメンチ(津軽地方)× すっきり辛口酒
イカを刻んで野菜と小麦粉を混ぜて揚げた「イカメンチ(いがめんち)」は、津軽地方の弘前を中心に愛される家庭の味です。揚げ物の油っぽさをさっぱりと流してくれるキレの良い辛口酒、「じょっぱり」や「安東水軍」と合わせるのがおすすめ。イカの風味と日本酒の相性は言わずもがなです。
3. じゃっぱ汁(津軽地方)× 燗酒
「じゃっぱ汁」は、鱈のあら(頭・骨・内臓など)と大根や人参などの根菜を味噌で煮込んだ津軽地方の冬の定番汁物です。「じゃっぱ」とは津軽弁で「雑把=あら」を意味します。鱈の濃厚な旨味と味噌のコクには、「菊乃井」や「白神」をぬる燗にして合わせるのが絶品。体の芯から温まる、厳寒の青森ならではの組み合わせです。
4. 八戸せんべい汁(南部地方)× 南部の銘酒
肉や野菜、キノコなどでダシを取った汁の中に、汁物専用の南部せんべいを割り入れて煮込む「八戸せんべい汁」。出汁をたっぷり吸ったモチモチのせんべいには、同じ南部地方の水で仕込まれた「陸奥八仙」や「八鶴」がよく合います。華やかな香りの吟醸系よりも、食中酒として優秀な特別純米などが料理の味を引き立てます。
5. いちご煮(南部地方)× 上品な吟醸酒
「いちご煮」は、新鮮なウニとアワビを使った八戸地方を代表する郷土料理で、農林水産省の「郷土料理百選」にも選ばれています。乳白色のお吸い物に浮かぶウニの姿が野いちごに見えることから名づけられました。繊細な磯の香りと上品な旨味には、「喜久泉 吟醸」や「桃川 吟醸酒」を冷やして合わせるのがおすすめ。素材の味を邪魔しない、きれいな味わいの吟醸酒がベストマッチです。
6. 十和田バラ焼き(南部地方)× キレのある辛口酒
牛バラ肉と大量の玉ねぎを醤油ベースの甘辛いタレで味付けし、鉄板で焼く「十和田バラ焼き」は、2014年のB-1グランプリで優勝した十和田市のソウルフードです。濃厚な甘辛い味わいには、キレのある辛口酒で口の中をリフレッシュするのがポイント。「陸奥男山」や「鳩正宗」の辛口タイプが相性抜群です。
7. 大間のマグロ・陸奥湾のホタテ × 華やか吟醸酒
青森といえばやはり新鮮な魚介類。大間のマグロや陸奥湾のホタテ刺身には、素材の繊細な甘みを邪魔しない、きれいで華やかなお酒を選びましょう。「喜久泉」の吟醸酒や、冷やして美味しい「桃川 吟醸酒」などは、魚介の脂をきれいに洗い流しつつ、余韻を楽しむことができます。
酒蔵見学のすすめ
青森県内の酒蔵では、一部の蔵元で見学を受け入れています。寒造りシーズンの11月から3月にかけては、実際の酒造りの現場を見学できる絶好の機会です。見学では杜氏や蔵人から直接話を聞くことができ、日本酒への理解が一層深まります。 ただし、見学を実施していない蔵元もありますので、訪問前には必ず各酒蔵のウェブサイトや電話で見学の可否を確認してから訪問しましょう。また、見学後の試飲では運転代行サービスや公共交通機関の利用をおすすめします。
まとめ
青森県の地酒は、豊かな自然環境と職人の技術が生み出す至高の一品です。寒造りシーズンに青森を訪れ、新酒の香りに包まれた酒蔵を見学し、地元の食材と合わせて味わう地酒は、きっと忘れられない思い出となるでしょう。 津軽地方と南部地方、それぞれに個性豊かな銘酒が待っています。ぜひ青森旅行の際は、地酒巡りも旅程に加えてみてください。青森の豊かな自然と文化を、日本酒を通じて存分に味わってください。
